S-3

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「じゃ、お疲れ!」 仕事が終わって、楽屋から一番初めに出て行ったのは翠羽ちゃんだった。 レギュラーでやってるバラエティの収録があるとかで忙しそうだ。 橙乃も、お疲れ、とだけ声をかけて出て行った。 皆忙しそうだね。 ま、俺もだけど。 「緋さん、今夜も撮影?」 衣装から私服へ着替え終わった菫が、被った帽子を指先で調節しつつ鏡越しに訊いてくる。 「うん。まあね。菫もでしょ?」 それぞれ主役のドラマをやってるから、俺達は今本当に忙しい。 何故かドラマも何もやってない碧君が一番忙しそうにしてるのは、釣りを勤しんでいるからだというのは皆が知ってる。 「少しでもいいからさ、ちょっと時間貰えないかな?」 驚いて菫を見た。 少し弱気な言葉のニュアンス。 こんな風に訊いてくるのは初めてかも。 何か、あったのか? 「いいよ、終わりそうな時間になったら連絡するよ」 気にはなったけど、気軽な感じで返事をする。 まあ、詳しい事は後で聞けばいいんだし。 「じゃあ、俺も帰るね」 それまで黙って用意していた碧君が気付けばもうドアの所にいて。 あ、と思った時には彼の背中は扉の向こうだった。
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