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「じゃ、お疲れ!」
仕事が終わって、楽屋から一番初めに出て行ったのは翠羽ちゃんだった。
レギュラーでやってるバラエティの収録があるとかで忙しそうだ。
橙乃も、お疲れ、とだけ声をかけて出て行った。
皆忙しそうだね。
ま、俺もだけど。
「緋さん、今夜も撮影?」
衣装から私服へ着替え終わった菫が、被った帽子を指先で調節しつつ鏡越しに訊いてくる。
「うん。まあね。菫もでしょ?」
それぞれ主役のドラマをやってるから、俺達は今本当に忙しい。
何故かドラマも何もやってない碧君が一番忙しそうにしてるのは、釣りを勤しんでいるからだというのは皆が知ってる。
「少しでもいいからさ、ちょっと時間貰えないかな?」
驚いて菫を見た。
少し弱気な言葉のニュアンス。
こんな風に訊いてくるのは初めてかも。
何か、あったのか?
「いいよ、終わりそうな時間になったら連絡するよ」
気にはなったけど、気軽な感じで返事をする。
まあ、詳しい事は後で聞けばいいんだし。
「じゃあ、俺も帰るね」
それまで黙って用意していた碧君が気付けばもうドアの所にいて。
あ、と思った時には彼の背中は扉の向こうだった。
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