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「ただ、」
それだけが言いたかったんだよ、と。
水分の膜が零れそうな程覆う瞳を揺らせて寂しく微笑むから。
俺は。
「碧君。碧君…」
名前しか口に出来なかったけど。
ちょうど一人分開いた横、その少し離れた所に座る貴方へ。
抱きしめる為、腕を延ばした。
いつにも増して泣きそうな眉と瞳が俺を見る。
多分、俺も同じような顔してる。
だって、視界が少しぼやけてる。
愛しくて。
嬉しいのが零れてしまいそうだ。
少し戸惑ってる碧君の肩へ両腕を回し、片方は彼の髪へ指を添えて。愛しくて抱きしめた。
「好きだ。俺も、碧君の事が。」
好きなんだ。
言って、感情が高ぶった。
涙と共に嗚咽が漏れる。
「嘘…」
怖ず怖ずと俺の背中を碧君の指が沿う。
「ほんとに?」
舌足らずな彼の囁きを聞きながら、俺はこれ以上泣声が漏れないよう唇を噛み締め。
碧君の肩に顔を埋めて、何度も何度も頷いた。
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