L.R.Another

1/1
前へ
/7ページ
次へ

L.R.Another

「…結局、2人はどういう関係なんだ?」 6月19日、22時、自宅。 ナナちゃん先生がやって来て、お袋と話をしていた。 「私と奈々子は幼馴染みなの。  大学まで同じだったんだよ。」 …俺はお袋の幼馴染みを疑ってたのか。 「この前言った真実君に似てる友達…、  あれが友香里の事だよ。」 「お袋も警察の真似事をしてたのか…。」 似てて当然だな、親子なんだから。 「真似事どころか…、  友香里は数々の事件を解決してきた、  いわば本物の名探偵なんだよ。」 「真実に変な事吹き込むの止めてくれる?  …まぁ、事実だけど?」 自慢気な補足も止めて欲しい。 「…それで、名探偵のお袋は、  いつ犯人が立原だと分かったんだ?」 「真実を迎えに学校行ったでしょ?  その時に武藤刑事に概要を聞いて、  直ぐに分かった…、かな?」 まさか…、幾ら何でもそれは…。 「殺害方法は教えたでしょ?  あのやり方で犯行可能なのは、  高い確率で男性体育教諭だから。」 「何故、体育教師だと…?」 「答えは簡単、体育教師だったら、  服を着替えても怪しまれないから。  恐らくあの立原って男は、  凶器の包丁を袖の中に隠していた。  返り血を浴びないよう袖を捲ると、  凶器を隠す場所…、無いでしょう?」 確かに…、隠すだけなら幾らでも隠し場所はあるだろうが…。 迅速に犯行を行うなら袖の中が一番だろう。 「多少なりとも血が付着したら、  着替えが必要になるでしょう?  洗って簡単に落ちるものじゃない。」 だから…、体育教師か。 「仕事着からジャージに着替えても…、  何ら不自然じゃないから…、か。」 …それはまさに、“安楽椅子探偵”だ。 事件の概要を聞いただけで犯人の目星を…。 午後23時、自室。 昔話に花を咲かせ始めた2人を残し、俺は自分の部屋へ戻っていた。 “友香里は数々の事件を解決してきた、いわば本物の名探偵なんだよ。” 先生の言葉を思い出し、俺の中には焦燥感が募っていた。 社交性では愛衣に劣り、力では希望には適わない。 頭では学生時代のお袋にさえ届かない。 周囲への劣等感…、お袋への劣等感。 「…危機の中に、好機…。」 この焦燥感と劣等感は…、俺にとって好機となるだろうか? 俺の中にあった変化への渇望は、事件を前後して強くなった…。 せめて…、好きな人を守れる位に…。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加