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いいないいなと思いつつそれから五日ほどたった頃、突然ケーゾーから電話があった。一人で野宿をしていてもつまらないから遊びに来いと言うのである。いいないいなと思っていた矢先の電話だったので僕はすぐさまOK。支度を整え、仕事が終わりしだい京都市内へ向かうことにした。
仕事が終わってからなので、京都駅に着いたのは終電間近の時間になってしまった。何度か遊びに来てはいるものの何となく活気があるのでそれとなく浮き足立ってしまう。
とりあえずケーゾーの言う「宿」へ向かわなければならない。電話での話によると駅の玄関を出てすぐの公園っぽいところらしいので雰囲気的にオロオロしながら一番大きい正面玄関に向かって歩いていると、「ニイチャン、ニイチャン」と誰かを呼び止める声がする。しかしまさかその「ニイチャン」が僕のことだとは思いもしなかったので無視して歩いていると、その人物はとうとう僕の前に立ちふさがり、「ニイチャン、ニイチャン」と再び繰り返した。
仕方がないので少しだけ顔を上げてみると目の前にはどえらく分厚い胸板が視界を遮っており、その胸板のはるか上のほうから「ニイチャン、今なんか仕事してんのけ?」という声が投げかけられてきた。
いきなりそんな質問をされてかなり戸惑ったが、とりあえず僕にはその胸板の正体が本当に人間であるかどうかさえ分からない。質問に答えるよりまず先に、胸板の全貌をこの目で確かめることにした。
身長は……一八〇センチ近くある。豹柄のコートを着ている。キンキラキンのネックレスをしている。サングラスをしている。スキンヘッドである。これはもう誰がどう見ようと100%間違いなく、たとえこの場に神様が降りてきて「この人は一般市民です」と説かれようと「いえ違います。この人は極道です」と反論したくなるほど完璧なヤクザスタイルであった。
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