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アナタが周囲を窺いながら校内に入り目的の場所に向かうと、そこには二つの人影が佇んでいました。
月が柔らかく世界を照らし、昼間の茹だるような暑さも鳴りを潜めた頃。月明かりに照らされ、表情の機微は分からないまでも、二人が誰か、アナタは分かったのでしょう。その表情と動きが一瞬固くなったのが印象的でした。
向こうもアナタに気付いたようです。一歩アナタに近付くと、声を掛けてきました。
「お前もか……?」
そう言いながら一枚の葉書を差し出してくる相手に、アナタの顔色は蒼白と言っても良い程に色を失っていました。それは、月明かりでそう見えるだけだ、等という言い訳では、到底誤魔化し切れるものではありません。
アナタはその葉書に視線を送ると、受け取る事なく無言で頷きました。
相手は葉書を、ズボンのポケットに無造作に突っ込むと、踵を返します。そして校舎に向かって歩き出しました。アナタはその後を着いて行き、もう一人もそれに続きます。
誰一人、口を開く者はなく、静寂の中、虫の声だけが響いていました。
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