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しかし、ここのところ、担任の女教師がわざとあたしにだけプリントを配らなかったり、あたしが声をかけても無視を極めている。
さすがに無視には困ったが、プリントはツインテール姉妹に見せてもらい、難を逃れている。
生まれつきのあたしの顔が、女教師は気に入らなかったのかもしれない。
「卑怯なやり方」
あたしはそう呟いて窓の外を見る。
ツインテール姉妹は窓辺に寄り添って立つ。
「坂口先生、お嬢様って雰囲気だから。きっといい育ちなのよ。明日にはやめてるかもよ、教師」
ルシファーの毒舌には驚かされる。やめる?そんな簡単に?
しかしあたしにも非がある。彼女ばかりを責められない。
坂口先生は、女教師としては珍しい、体育の先生。
あたしは体育の成績が、ことごとく悪いからである。
目をつけられて、慣れない環境でのストレスのはけ口に、成績の悪いあたしは格好のカモだったというわけだ。
仕方がない。それくらいは我慢しよう。
幸せな学校生活を送るためには、少しくらい我慢した方がいい。
そう思ってたのに。
「今日、車、ない」
「え?」
レイラがつぶやく。
校舎の隣の駐車場を見て。
「ホントだ。坂口の車、ないじゃん」
あたしはツインテール姉妹の会話を聞いて時計を見る。
周りの生徒は気付いてないみたいだけど、坂口が来るはずの時間はとうに過ぎていて、本当ならば、ショートホームルームの時間だ。
私たちは顔を見合わせる。
すると、教室のドアが勢いよく開いた。
「おいお前ら!とっとと席に着け!」
見知らぬ男性が教卓の上に業務用手帳を乱暴に置く。
背が高くて、すらっとしてる、なんだかカッコいい人だ。業務用手帳を広げているからには、教師なのであろう。
「今日からおれが担任だ。嫌われたくなかったら、静かにしとけ」
どすの利いた声が、教室に響き渡る。
たぶん、この時だけだ。他の生徒と意見が一致したのは。
イケメンだけど、
誰?
これが、あたしと先生の出会いだった。
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