1、色眼鏡はいけません

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「ぇ…、え…?」 拳を構えたまま何度も瞬きする俺に、超絶美形痴漢はふっと笑って言う。 「どうした。殴らないのか?」 この声…確かにさっきの痴漢と一緒だ。人違いという可能性はなくなった。 が、しかし。 どう見ても痴漢しそうな人間に見えないのだ。 紫がかった黒髪はゆるく波打っていて、その整った顔の輪郭を隠すほどの長さがあるというのに、全く野暮ったい感じがしない。 スーツではないから通勤中ではなさそうだが、完璧なスタイルにグレーのジャケットが似合っていて、はっきり言ってセンスがいい。 それになんと言うか、全身から大人の色気みたいなものが滲み出ているというか… 「時間はいいのかい」 「へ?」 「職場へ行くんだろう?新入社員くん」 そうだった。 少し余裕をもって出発したものの、随分な時間こいつを見て固まっていたせいで、時間はほぼギリギリになっていた。 「…死んどけ…」 「はいはい」 悔しいが初日から遅刻する訳にはいかない。 物騒な捨て台詞を吐いて俺は会社に向かって走り出した。
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