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「ぇ…、え…?」
拳を構えたまま何度も瞬きする俺に、超絶美形痴漢はふっと笑って言う。
「どうした。殴らないのか?」
この声…確かにさっきの痴漢と一緒だ。人違いという可能性はなくなった。
が、しかし。
どう見ても痴漢しそうな人間に見えないのだ。
紫がかった黒髪はゆるく波打っていて、その整った顔の輪郭を隠すほどの長さがあるというのに、全く野暮ったい感じがしない。
スーツではないから通勤中ではなさそうだが、完璧なスタイルにグレーのジャケットが似合っていて、はっきり言ってセンスがいい。
それになんと言うか、全身から大人の色気みたいなものが滲み出ているというか…
「時間はいいのかい」
「へ?」
「職場へ行くんだろう?新入社員くん」
そうだった。
少し余裕をもって出発したものの、随分な時間こいつを見て固まっていたせいで、時間はほぼギリギリになっていた。
「…死んどけ…」
「はいはい」
悔しいが初日から遅刻する訳にはいかない。
物騒な捨て台詞を吐いて俺は会社に向かって走り出した。
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