ep.2 【ソラ】

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突き当たりにたどり着くまでそう距離は無かった。金のドアノブを回して、突き当たりのドアを開けると、埃っぽい匂いが鼻をついた。 ……アトリエ。 頭の中の言葉を当てはめるならば、それがぴったりだった。あちこちに佇む大小様々なイーゼル、壁に立てかけられた大量のキャンバス。極めつけに、絵筆が大量に詰め込まれた革の袋が床に無造作に転がっていた。 危うく革袋を踏んでしまいそうになりながら、部屋へ足を踏み入れる。 ガチャン。 背後で音がした。 「え、」 振り向くと、閉めた覚えのないドアが、廊下への道を閉ざしていた。慌てて駆け寄り、ドアノブを掴む。 「ッ熱……!!」 その瞬間、手が悲鳴をあげた。 咄嗟に別の手で腕を掴み、何とかドアノブから引き剥がす。恐る恐る手のひらを掲げて見ると、ジュウ、と音を立てて真っ赤に爛れていた。痛みによって僅かに涙を滲ませながら、青年はドアから離れる。 誰がこんなことをしたのか鍵穴を覗いて確かめようかと思ったが、嫌な予感を覚え、そっとしておくことにした。 ……にしても、たちの悪い罠だ。 青年は焼けただれた手を別の手で庇い、応急処置になるものがないかと埃っぽいアトリエを見回す。そして蛇口を見つけると、駆け寄って、火傷を水にさらした。 ……水は、ちゃんと出るんだ。 青年はしげしげと蛇口を眺めた。
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