4人が本棚に入れています
本棚に追加
何故か氷のように冷たい水に充分に火傷をさらし、側の彫刻にかけてあった布を破って巻きつけた。痛みを凌ぐためだけだから、適当でいいか……と、青年は確かめるように拳を握る。ジン、とした痛みを感じたが、多分平気だ。
……。
握りしめた拳を眺め、青年はため息をついた。痛みはある。つまりはちゃんと生きているし、この身体はちゃんと自分のものだ。
埃っぽい匂いに、手の甲で鼻を覆う。こんな匂いを感じて、不快に思うのもちゃんと、『俺』だ。だからきっと大丈夫。
……大丈夫?何が。
どろり。黒くて、嫌悪したくなるような何かが詰まって、胸焼けのような苦しさを起こす。それが出てくる前に、青年は拳をキツく握りしめた。鋭い痛みに意識が集中する。ーーー余計なことを考えるのは止めないと。そう思った。
ぱっと顔をあげて、アトリエを見回す。
乱雑に立ち並んだイーゼルの群れをすり抜けて、奥へ。青年が歩くたび、どこかで何かが軋む音がする。さっきのような罠があることを考えにいれて、青年は、物に触れるときは慎重に触れた。
ーーーと、窓際のイーゼルに、絵が置かれているのを見つけた。
あ、と小さく声をあげて、絵に近寄る。
最初のコメントを投稿しよう!