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窓際の光をいっぱいに浴びたその絵は、褪せてしまうはずの色を鮮やかに主張し、綺麗な姿のままそこに佇んでいた。思わず見入ってしまいそうになるその絵には、豪華で大きなお城が描かれていた。
森の中にポツリと潜むお城。青年はそっと、その絵に手を伸ばし、触れた。
「……ここ、だ。」
口が勝手に言葉を吐き出す。ここだ。ここで間違いない。
今俺がいる場所は、このお城の中だ、と。
ぐらりと脳が揺れる。何かを思い出しかけるのに、それを思い出すことに何かが耐えられない。崩れてしまう気がする、と無意識に思う。
……けど、俺はお城にいる。それは間違いないんだ。絶対。
ふらりと絵から離れた。窓から外を覗くと、チョロチョロと水を漏らしている石造りの噴水が見えた。そのそばには、綺麗な薔薇のアーチがある。中庭だろうか。
なんにせよ差しこんでくる陽光に青年はほっと胸を撫で下ろし、窓から目をそらした。
が、ふと、その動きが止まる。
……どうして目をそらしたんだろう。この窓から出てしまえばいいのに。俺が誰なのか、どうしてここにいるのか分からなくったって。
まだジンジンと痛みを訴える手の平を見つめる。こんな目に合わなくて済むんだ。ここから、この窓を割って外に出てしまえば……。
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