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カタン
物音がした。
青年は躊躇いなく、キャンバスの山に阻まれている扉を見た。アトリエの奥にあるその扉は、重々しい木の質感が見て取れる。物音は、確かにその向こうから聞こえた。
誰かいるのかもしれない。
青年の手は、名残惜しく窓の外の景色に視線を遣りながら、窓のそばを離れた。そして、山のように積まれたキャンバスに手をかける。
「よっ、と」
7束ほどを一気に抱え上げて、案外自分に力があることを、青年は噛み締めた。崩れないように部屋の空いている場所へ運んでは積み上げた。それを繰り返すうちに山がすっかり無くなったのを満足げに見て、青年は重い木の扉を空けた。
ピアノの音がする。
中は薄暗かった。画材や壊れたイーゼルが闇の中にうっすら見える。どうやら、物置代わりの部屋らしい。
キィンと耳鳴りがして、辺りがやけに静まり返っているのに気がついた。冷んやりとした空気が足元を撫でていく。べっとりと張り付くような不快感に、僅かに顔をしかめた。
……。……あれ?
青年の頬を、冷たい汗が伝う。
……ピアノの音が聞こえない。
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