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心臓が、また喧しく騒ぎ始める。危険だ、不安だ、と叫び始める。青年はぎゅっと胸辺りを掴み、深呼吸をして、足を踏み入れた。キシ。軽い音がする。
キシ。一歩進むたびに、視界の端に何かがチラつくような感じがする。
キシ。奥に行けば行くほど、闇は濃さを増す。
ギシ……。
「、」
ぼう、と。
前方に火が見えた。しかしその火は青年の知る火とは違って青白く、何故か、壁から突き出た棒に灯っていた。目を逸らすことも構わないまま、その火を見つめる。火を宿した木の棒は、ずるずると部屋の中にめり込んでくる。
そして、木の棒を掴む手が、壁から突き出てきた。
声もなく、青年は目を見開く。火を持つ手は真っ黒で、腐っているかのように、ぶすぶすと気味の悪い音を立てて、黒い汁を絶えず滴らせている。
心臓と脳が必死で警告するのに対し、体は根をはったように動かない。黒いものは、ずるりと壁から這い出てきた。
ぐしゅぐしゅと腐っている、奇妙な黒いもの。その蠢く黒い塊からいくつもの細い腕が突き出て、床に手を突き、這っている。そのうちの一本に、しっかりと青白い火の松明が握られていた。
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