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アレは一体、何だ?
心臓の音に耳が麻痺し始める。眩暈がする。足が震える。くゆり、と、火はこちらを照らした。
青白い火は、火そのものが光るだけで、周りを照らすことは出来ないらしい。しかし熱は火のソレと同様らしく、次第に部屋の温度は上がっていった。薄闇の中にぼんやり浮かぶ火は、ゆっくりと近づいてくる。
まずい、逃げないと、
頭では分かっているのに、身体が動かない。ずるり、ずるりと形を崩しながら這い寄ってくるソレから目が離せない。まずい。
轟音がした。
ビクッ、と、身体が素直に驚く。と同時に足は床から離れた。思いっきり床を蹴って、走る。後ろで、さっきまでずるりずるりと動いていたはずのものが、ズズズッと速度を早めたのが分かった。
耳の中でまだ轟音が響いている。あれは、ピアノの音だったーーー青年はそう確信しながら、アトリエへと戻るドアを開けた。
無我夢中で、窓際まで戻る。黒いものはいくつもの腕を素早く動かして追ってきている。イーゼルでもぶつけてやろうかと、側にあったイーゼルに手をかけた。
そのとき、嫌な音がした。
何かが焼けるような、そして同時に、何かの断末魔。
振り返ると、黒いものは弱々しげに、くたりと火の棒を垂れていた。その身体に、窓の外から、太陽の光がさんさんと降り注いでいる。
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