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その光景に思わず足を止めてしまったことに気付いて急いで遠ざかったものの、黒いものはピクリとも動かない。ぶすぶすと不快な音を立て、横たわって(?)いるばかりだった。
もしかして、光に弱いのか?恐る恐る近寄ってみても、さっきのように襲いかかってくる気配は無い。大きく安堵のため息をつき、どっと体の力が抜けて、座り込んだ。本当に、驚いた。
それにしても、コレは何なんだろう?
顔をあげて、しげしげと黒いものを見つめる。じゅうじゅうと焼けて行くそれは、もうほとんど炭のようになっていた。何となく直視できなくて、青年は躊躇いがちに目を逸らし、立ち上がった。なんにせよ、側にこうして座っているのは危ない気がする。
青年の足は再び物置部屋へと向けられた。最初の物音がこの妙な黒いものの音だったにしても、自分を助けてくれたピアノの音は別なもののはずだ。
開けっ放しだったドアをくぐり抜けて、再び薄闇の中に踏み込む。部屋は再び静まり返っていて、青年の足音と、床が軋む音だけが響く。
部屋の奥は作品が無造作におかれていて、ほとんどが石の彫刻だった。その中の一つに、青年の目が自然と吸い寄せられた。
蝶。
艶やかな羽を広げ、舞う姿。石とは思えないほど脆く、儚げな様子が、青年の目に焼き付いた。
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