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これが読めて、しかも弾けるなんて、ピアノが出来る人っていうのはすごいなぁ……。
青年は感心しながら、譜面を天窓からの光に掲げてみた。すると、裏側に何か文字が書かれているのが見えた。
目を丸くし、慌てて譜面をひっくり返す。すると、メモ帳に書かれていた文字と同じ文字で、
『音が好きだった。そして光も』
たったそれだけ、書かれていた。再び譜面を表にし、タイトルを眺める。褪せた黒のインクで、【えくぼのお姫様】と書かれていた。
「……その曲が聞きたい?」
鈴のような、声がした。
優しくて、ころりとした、澄んだ音。振り返るのと同時に見えた、青色の長い髪と、瞳。
そして、髪を左でひとつにまとめている、綺麗な蝶の髪飾り。
小さな女の子が、グランドピアノの前に立っていた。
「貸して」
細い腕が、すっと伸ばされる。青いワンピースの裾が、ゆらりとゆれる。恐る恐る楽譜を差し出すと、少女は優しい手つきで受け取って、ピアノの譜面台に楽譜を載せた。
ピン、
軽い音が響く。その音を皮切りに、ピアノの鍵盤は一人でに沈み、浮く。さっきとは打って変わって、楽しいメロディーが部屋を満たした。
「…………。」
少女は何も言わない。聞き入っているのか、考え込んでいるのか。その青い、深い瞳は、真っ直ぐ青年の瞳を見つめていた。
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