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楽しげなメロディーが、沈黙を埋めて行く。メロディーが喉に詰まって行くような、妙な息苦しさに襲われ、青年は意を決して、口を開いた。
「き、君は誰?」
「…………。」
え、あ。青年の口が、情けなくもごついた。返ってきた反応をどう考えるか、ということをすることも許されなかった。少女は黙ったまま、青年を見つめる。
その瞳が、ゆっくり閉じられた。
「……どうしたの?……あ、眠い?」
「…………ソラ」
「え、」
「わたしの名前、ソラ。」
そう言って、再び開かれた瞳には、きらきらと天窓の光が映っていた。深い青空色の瞳に、太陽が現れたように。
「ソラ、……ソラ、かぁ。いい名前だね」
「あなたは?」
「あ、俺は、……あぁ、そうだった」
考えなくても出てくるはずの名前が、頭のどこを探しても見当たらないことで、青年は自分が記憶を失っていることを思い出した。肩を落とし、深いため息をつく。
「ごめん、俺……自分のこと、覚えてないんだ。それから、どうしてここにいるのかも、ここはどこなのかも、全部……。ねぇ、もし知ってるのなら、教えてくれないかな」
「…………。」
ソラは、僅かに太陽を翳らせた。あ、と呟いて、慌てて手を降る。
「いいんだ、気にしないで!そうだよね、いきなり会ってこんなこと聞かれても、困るよね……。ごめん」
「ううん、ごめんなさい。わたしのほうこそ……。……じゃあ、あなたのこと、どう呼んだらいい?」
「え?……えーっと……」
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