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青年は首を傾げて、頭の中に思いつく限りの単語を並べてみる。しかしほぼ空っぽの頭では、思いつく単語の数も限られていた。
とうとう観念して、青年は力なく笑った。
「うーん……。ソラの好きなように、呼びやすいように呼んでくれれば、助かるよ。俺、全然思いつかないから……」
「そう?じゃあ、」
ソラの小さな口が、一瞬もごつく。
その後、青年を上から下までじぃっと見つめ、ぽつりと呟いた。
「……クロ」
「黒?」
「うん。真っ黒だから、黒」
「ああ、確かに」
青年はなるほどと手を打って、再び自分の姿を確認する。上から下まで黒っぽい色で統一されている自分の服は、……これは自分の趣味なのだろうかと、そんな考えが頭をよぎった。
顔をあげると、目の前に白いものーーーほっそりした指が伸ばされていた。目を瞬かせて、その指の動きを見つめる。
ひやりとした温度は、青年のーーークロの、ボサボサの黒髪をふわりと撫でた。
「髪、結び直す?とれかかってるよ」
「え、結ぶ?」
「うん」
髪……結んでたんだ。
首にチクチクとあたる髪は、結ばれていたらしい。ソラの手が触れているあたりに手を伸ばすと、たしかに、ゴムらしいものの感触がした。
「あ、本当だ……」
「結び直すね。その椅子に座って?届かないから」
「、……ありが、とう」
何となくむず痒くなって、クロは俯きながらピアノの前の椅子に座った。途端に、鍵盤の動きが止まる。
沈黙が、再び部屋を満たす。
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