ep.2 【ソラ】

13/16
前へ
/33ページ
次へ
青年は首を傾げて、頭の中に思いつく限りの単語を並べてみる。しかしほぼ空っぽの頭では、思いつく単語の数も限られていた。 とうとう観念して、青年は力なく笑った。 「うーん……。ソラの好きなように、呼びやすいように呼んでくれれば、助かるよ。俺、全然思いつかないから……」 「そう?じゃあ、」 ソラの小さな口が、一瞬もごつく。 その後、青年を上から下までじぃっと見つめ、ぽつりと呟いた。 「……クロ」 「黒?」 「うん。真っ黒だから、黒」 「ああ、確かに」 青年はなるほどと手を打って、再び自分の姿を確認する。上から下まで黒っぽい色で統一されている自分の服は、……これは自分の趣味なのだろうかと、そんな考えが頭をよぎった。 顔をあげると、目の前に白いものーーーほっそりした指が伸ばされていた。目を瞬かせて、その指の動きを見つめる。 ひやりとした温度は、青年のーーークロの、ボサボサの黒髪をふわりと撫でた。 「髪、結び直す?とれかかってるよ」 「え、結ぶ?」 「うん」 髪……結んでたんだ。 首にチクチクとあたる髪は、結ばれていたらしい。ソラの手が触れているあたりに手を伸ばすと、たしかに、ゴムらしいものの感触がした。 「あ、本当だ……」 「結び直すね。その椅子に座って?届かないから」 「、……ありが、とう」 何となくむず痒くなって、クロは俯きながらピアノの前の椅子に座った。途端に、鍵盤の動きが止まる。 沈黙が、再び部屋を満たす。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加