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だが、クロの心は、先ほどとは打って変わって、軽やかになっていた。ソラはとても良い子だ。クロ、という、ようやく手に入れた名前に、心が痒くなる。
ソラは一緒にいても大丈夫だし、……むしろ、これから一緒にいてくれないかな?
……無理かな。クロの髪に、優しい手が触れる。髪を集めている手の動きを感じながら、クロは口を開いた。
「ねぇ、ソラは……ここで何をしていたの?」
「わたし?わたしは……ずっと、音を聞いてた」
「音……。あぁ、曲のこと、かぁ。すごく綺麗な曲だよね。俺もさっき、聞いてたんだ。向こうの部屋で」
「うん。綺麗な音」
ぐい、と髪が引っ張られて、ゴムがかけられる。
「音楽が好きなの?」
「音は好き。それから光もね」
「光が好き?どうして?」
「綺麗だから」
ソラの声が、心地よく耳に触れる。なんとなく、優しい表情をしているんだろうな、と分かる声色だった。ぱちん、と、ゴムが髪をまとめる。クロよりは冷たい手が、そっと髪から離れた。
「うーん……。ちょっと、右寄りになっちゃった。結び直すね」
「あ、いや、大丈夫だよ!ありがとう、結んでくれて」
椅子から立ち上がると、髪に触れ損ねたソラの手が、残念そうにぎゅっと握られるのが見えた。
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