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かつり、こつり。ーーーぱたぱた。
かつり、こつり。ーーーぱたぱた。
歩くと付いて来る、小さな靴音。そのリズムに、思わず顔が綻ぶ。つい、もっと歩いていたいなんて思う足が、窓の前を通り過ぎようとした。おっと、クロは呟いて、慌てて足を止める。
「この窓?……本当だ、お庭が見える」
ソラは平たい靴をぱたぱたと鳴らして、窓枠に手をかけ、庭を覗き込む。その足元の床には、黒い染みが広がっていて、アレは結局あのまま焼き尽くされてしまったのかと、クロはため息をついた。
「中庭かな?」
「きっと、そうだよ。あのアーチ、綺麗だよね」
「うん……。けど、ちょっと匂いが強い。」
「え、匂い?ここから分かるんだ。……すごいなぁ」
「…………。」
ソラは瞬きをして、クロを見上げた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「ねぇクロ。クロには、あのアーチが綺麗に見えるんだよね。」
「え?……う、うん」
確認するように、クロはさっと視線をアーチに走らせる。色とりどりの薔薇に包まれていて、お世辞じゃなく、本当に綺麗だとクロは思った。俺がそう思うだけで、実際はそうでもないのかな?
恐る恐るソラをみると、ソラは笑っていた。
「そうだと思う。あれは綺麗だよ。あれを綺麗にしてるのは、形と色と香りと光。全部が重なって、薔薇のアーチになる」
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