ep.3【セカイ】

3/8
前へ
/33ページ
次へ
ソラの口からは、メロディーのようにスラスラと言葉が流れて行く。クロはそれを逃さないよう噛み締めながら、耳を傾けた。 「世界はひとつじゃない。たくさんのセカイがあって、たくさんが重なってひとつの世界になる。わたしたちが存在する世界になる。」 ソラが、クロの手を握った。また、ぐにゃり、と歪む感覚。 「わたしは、ちょっと変な子なの。みんなと違うの」 そのまま、唐突にこぼれおちた言葉に、クロは目を見張った。 「どうして?」 「……だって、あのアーチが、わたしには綺麗に見えないもの」 「みんながどう思うかなんて、みんな違うよ」 「ちがうの……。クロ、」 青空色の瞳が閉じられた。 「今、セカイはどう見える?」 耳鳴りがした。 ハッとして、辺りを見る。 太陽の光が差し込むアトリエはどこにも見当たらない。 代わりに、足元を這うように、空中を泳ぐように、何色とも言い難い絵の具のようなものが蠢いて行く。クロとソラは、その蠢くものの上に立っていた。 「な、に?これ」 蠢くもの以外には暗闇しかない。 声が思わず震えてしまうと、ソラが手を握る力がぎゅっと強くなった。 「怖がらなくても大丈夫だよ。ここはね、【香り】のセカイなの」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加