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「香りのセカイ?」
目を瞬かせても、景色は変わらず、様々な色をかき混ぜた絵の具のようなものが蠢く。ソラはその一つを見上げて、細い指を突きつけた。
「あれはね、油絵の具の油の香りなの。わたしたちが足を乗せてるこれも、油の香り。」
「……どういうこと?香りなのに、目に見えて、触れられるなんて」
「わたしたちは今、香りのセカイに【存在】しているから。だから目に見えるし、触れられる。……分かんなくてもいいの、とにかく、これで窓も壁もなくなったでしょ?」
ソラの細い指が、移動する。指した先にあったはずの窓はどこにも見えず、代わりに、毒々しい色のカーペットのようなものが広がっていた。
思わず、うっと呻く。見ているのが嫌になるような色彩が、目を逸らしても、網膜に焼き付いて離れなかった。ソラの手が再び、強くクロの手を握る。
「あれは、お庭の草や花の香り。混ざっちゃって、変な色になってるでしょ。それから、あの紫っぽい塊が、薔薇のアーチなの」
ソラの言葉に、クロの視線が再び移動し、徐々に、それを捉え始める。毒々しい色を耐えつつ視線をあげていくと、……それ以上の不気味な光景が目に入った。
紫、青、黄色、黒、緑……よくわからない色が幾つも幾つも絡まりあって出来た塊が、空間に根を張って息づいていた。
根がびくり、びくりと小刻みに動く様子が、クロの背中にひやりと冷たいものを感じさせる。
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