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「不気味、だよね。わたし、香りは嫌い」
ぽつりと、隣でソラが呟いた。そして、クロの手をぐいっと引く。
「クロ、向こうに行こう。早くこのセカイから出たいでしょ」
「う、……うん」
引っ張られるがまま、クロは蠢く絵の具の上を歩く。壁があったはずの場所で絵の具はつっかえるように止まっている。
しかし、毒々しい色のカーペットは、途絶えた絵の具のすぐ目の前に広がっていて、軽く飛び越えるだけでカーペットに飛び乗ることが出来た。
耳鳴りがした。
頭を突き刺すようなひどい耳鳴りに瞬きをすると、セカイは世界に戻っていた。
チュンチュン、と鳥の声が近くに感じる。足元に、草が触れる感じ。薔薇の香り。
気がつけば、クロとソラは、日の光が降り注ぐ庭に立ち尽くしていた。
「……庭、だ」
見上げると、どこまでも透き通っている空が見つめ返してくる。
クロはまだ足がふわふわしているような感覚を覚えながら、確かめるように一歩、踏み出す。
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