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席へと座ると、守川以外は皆、静かに食事をしていた。
それを見習い、守川も静かにしつつ、食べていた。
守川はちらりと皆のトレーに乗っている皿を見ると、二皿ぐらいしか乗って居なかった。
どうやら、余りお腹が空いてない様子だった。
それもその筈、大体の人は今日寮に帰って来たばかり、きっと実家などで多少食事をして来たのだろう。
少しづつ食べていた守川は、皆に遅れを取っていた。
続々と皆は食事を片付け始め出していた。
(やばっ、早く食べねぇっと)
焦り、食べ進めていると、誰かが、近寄って来た。
「そんなに焦らなくていいのよ、ゆっくり食べなさい?」
低い声で、でも綺麗な声が耳に入って来た。
目線を上げると、さっきまで厨房に居た女性の方だった。
「は‥っ、はい」
急に声を掛けられ、驚きつつも、手をゆっくりにし、口の中の物を飲み込む。
「初めまして、守川君私は山吹理緒菜、まだ独身の28よ、宜しくね?」
守川の食べっぷりに少し笑いを溢しつつ、笑顔を向けてくれた。
赤沢が言って居た様な怖い要素は全く無く見えた。
「はい、宜しくお願いします‥、山吹さんはここに勤めて長いんですか?」
笑顔に助けられ、自分以外生徒が居なくなった部屋で、気軽に話し掛けた。
「ええ、私、大学を卒業してからずっとここで給食のお姉さんやってるわよ?」
不思議と違和感があった、大学を卒業したのなら、ここよりずっといい仕事に就けて居る筈なのに。
「どうして、この寮にこだわりがあるんですか?大学を卒業してるなら、もっといい仕事があるのに‥、あ‥給料はいくらとか分からないんですが‥」
失礼な事を言ってしまったと思い、口を閉ざしてしまう。
「いいわよ、当たり前の事よ?もっと沢山仕事はあるけど‥、この寮に惚れて居るの‥、好きだから、ずっと守って行きたいのよ」
そうなんだ、深く納得してしまう、山吹の顔がとてもいい顔‥、生き生きとして輝いている顔をしていたから。
長く語らずとも、その表情が全てを語って居る様に見えた。
「すみません、不躾な事を言ってしまって‥、僕も一目見て気に入ったんです、同じ気持ちの人が居て良かったです」
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