其の一

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「………………………はぁ~………………」 川辺で体育座りしながら、三点リーダを十二個も使って溜め息をつく。 ああやるせない。自分はなんて奥手なのだろう。もっと早く気持ちを伝えるべきだった。ああ、文…… きっと今の私はそう、凄く恐い顔をしていることだろう。ていうかしてる。水面に写った顔、超恐いもん。自分でも恐いもん。 まあ一応、今日は文の方から呼ばれたんだけど、なんだか嫌な予感がする。件のツインテール鴉天狗を連れてきて、「私の彼女です」なんて紹介された時には、私はどうすればいいのだろう。 河童は水死できるだろうか、などと考えはじめたそんなとき、私に声をかけている何者かに気付いた。 「……とり……にとり、大丈夫?」 「椛……」 顔を上げると、白い髪をした、少し小柄な少女が目に入った。彼女は犬走椛。羽根は生えてないが、立派な白狼天狗だ。ちなみに、妖怪の山の治安維持を行っている哨戒天狗の一人でもある。 「うわ、顔恐っ。どうしたの?何か悩み事?」 年下だけど気遣いの良く出来るいい子だ。うん。 「椛~……文が、文が~……」 「あ、文様がどうかしたの?あの女、にとりを泣かせたからには生かしては置かんぞ……!」 なんだか椛が凄く恐い顔をしたので、慌てて文のフォローをする。 「ち、違うよ、えーと、私の勘違いかもしんないしさ」 「勘違い……ああ、姫海棠様のこと?」 怪訝な顔で呟いた椛に、姫海棠?と、一瞬頭を傾げかけ、ああ、と思いいたる。姫海棠。たしか、射命丸と並ぶ天狗の名家。 その姫海棠と文になんの関係があるのだろう。 「姫海棠様は、最近になってようやく外に出るようになった所謂箱入り娘で、その世話役に」 「文が選ばれた……と」 その瞬間、私の腰から力が抜けた。 「に、にとり!?」 「よ……よかったぁ……」 声が震える。付き合っている訳ではない、と分かっただけで凄く安心した。……確定はしてないけど。 「ありがとう椛、すごく落ち着いた」 「そ、そう……あとできつく言っとかないと……」 椛が恐い顔をしているのも無視して、私は足取り軽やかに、文との約束の場所へ向かった。
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