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「………………………はぁ~………………」
川辺で体育座りしながら、三点リーダを十二個も使って溜め息をつく。
ああやるせない。自分はなんて奥手なのだろう。もっと早く気持ちを伝えるべきだった。ああ、文……
きっと今の私はそう、凄く恐い顔をしていることだろう。ていうかしてる。水面に写った顔、超恐いもん。自分でも恐いもん。
まあ一応、今日は文の方から呼ばれたんだけど、なんだか嫌な予感がする。件のツインテール鴉天狗を連れてきて、「私の彼女です」なんて紹介された時には、私はどうすればいいのだろう。
河童は水死できるだろうか、などと考えはじめたそんなとき、私に声をかけている何者かに気付いた。
「……とり……にとり、大丈夫?」
「椛……」
顔を上げると、白い髪をした、少し小柄な少女が目に入った。彼女は犬走椛。羽根は生えてないが、立派な白狼天狗だ。ちなみに、妖怪の山の治安維持を行っている哨戒天狗の一人でもある。
「うわ、顔恐っ。どうしたの?何か悩み事?」
年下だけど気遣いの良く出来るいい子だ。うん。
「椛~……文が、文が~……」
「あ、文様がどうかしたの?あの女、にとりを泣かせたからには生かしては置かんぞ……!」
なんだか椛が凄く恐い顔をしたので、慌てて文のフォローをする。
「ち、違うよ、えーと、私の勘違いかもしんないしさ」
「勘違い……ああ、姫海棠様のこと?」
怪訝な顔で呟いた椛に、姫海棠?と、一瞬頭を傾げかけ、ああ、と思いいたる。姫海棠。たしか、射命丸と並ぶ天狗の名家。
その姫海棠と文になんの関係があるのだろう。
「姫海棠様は、最近になってようやく外に出るようになった所謂箱入り娘で、その世話役に」
「文が選ばれた……と」
その瞬間、私の腰から力が抜けた。
「に、にとり!?」
「よ……よかったぁ……」
声が震える。付き合っている訳ではない、と分かっただけで凄く安心した。……確定はしてないけど。
「ありがとう椛、すごく落ち着いた」
「そ、そう……あとできつく言っとかないと……」
椛が恐い顔をしているのも無視して、私は足取り軽やかに、文との約束の場所へ向かった。
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