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* * *
「ゆり姐~待ってください~」
何回も聞くその言葉に、神田は嫌そうな顔で振り向いた。
「いつまでついて来るつもりですか?」
はぁ。とわざとらしいため息を吐き出しながら踵を返し、歩きだした。
路地に差し掛かったところで、2つの影が現れた。
「あれあれ?神田さんじゃないですか。」
正体を現した大舞妓がニヤニヤしながら腕を組んで歩いてきた。
「あの噂の転こ~生の!」
小舞妓も腕を組んで神田の前に現れ、大舞妓の後ろに立った。
神田は無視して、歩きだした。
「ちょっと待った。」
腕を引かれ、神田は少しよろけた。
そのとき、一冊の本がスクールバックから落ちた。
「あ…。」
それは、介護士の参考書だった。
「へぇー弁護士。神田さんって頭いいんですねー」
介護士の本をひらひらとしながら大舞妓が言った。
「介護士です。」
すかさず、神田が介護士の参考書を取った。
「………。どっちも同じでしょ?」
そしてまたバックに入れようとした介護士の本を大舞妓はとった。
適当なページを開き、ビリビリと見せ付けるようにゆっくり破いていく。
その光景を神田は顔色一つ変えず見ていた。
変わりに由香は驚いた表情で神田を見つめた。
破いた紙をひらひらさせて、介護士の本と一緒に大舞妓は落とした。
神田は破れた紙が飛んでいくのを、表情は変えず目で追っていた。
視界に入らなくってから、本を拾い上げバックに戻す。
舞妓シスターズは、ニヤニヤしながらそんな神田を見ていた。
けれど、神田は何もせずまた歩き出した。
「あっゆり姐!」
その後を由香が急いで追った。
神田の背中を見ながら、舞妓シスターズはいかにも不機嫌な表情を浮かべて、柵を殴った。
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