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現場は散々なものだった。
捜査一課課長の関口憲司(せきぐち・けんじ)は死体を見て唖然とする。これは─と言おうとしたのを察知してか背後からボソボソと声が聞こえてきた。
「これは──人間、ですよね?」
頭の薄い老いた警官がヘコヘコしながらやって来た。そんなに頭を下げていたら嫌でも頭頂部に目がいってしまうのに。
憲司は警官から目をそらすと人間……だったと思われる遺体の側へ行き、手をあわせた。
「たぶん人間でしょうね……破片から見て」
遺体はざっと見ただけで数百の破片になっていた。もはや顔はともかく、性別・体格さえもわからない。
「おぞましい。人間が出来ることじゃない」
警官が吐き捨てるように呟いた。
今までにこんな事件はなかった。バラバラ殺人はあったものの、数百に至るまで破壊されたものなど、警官の言葉のとうり人間が出来る事じゃない。──物理的にだ。そしてさらに奇妙なのは
「足跡が何処にもなかった、と」
「え、ええ。私が見たときは一面血の海だったのに足跡などありませんでした」
それは既に警官が撮った写真で確認した。今や血は床に染み込んでいるが、相当凄かったようだ。
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