Chapter1

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ああ、やばいな。しっかりと傷が残ってやがる。 俺はため息をつきながら自分の右手を見た。明らかに皮膚が切れている。ガゼルパンチなんて大技を使うんじゃなかった。そしたらばれずに済んだかもしれないのに。 「ただいま~……」 公園から帰宅した俺は、とりあえず右の拳の部分に絆創膏を貼るために自分の部屋を目指した。 俺の家は屋敷のようになっている。さらに敷地内には道場もある。元々祖父がその道場で鳴海式武術とかいう独自の戦闘術という名の防衛術を門下生に教えていたのだが、祖父亡き今、我が妹の訓練の場となっている。妹は、祖父に才能を認められ、鳴海式武術の正当な後継者でありさらに師範でもある。ちなみに俺も小学生まではその武術を習っていたが、妹にぼこられるので中学生になってから運動部に入り、そっちに精をだした。というかそっちに逃げた。 で、家自体かなり広い。今は俺と妹の2人しか住んでいないので、持て余す部分もかなりある。使っていない部屋もいくつかあるし、掃除が大変なのだが、そこら辺は全て妹が担当している。妹いわく、俺だとかえって汚くなるらしい。効率も悪いし、自分がやる方が手間もかからないとも言っていた。 俺がこの家でやることといったら夕飯の支度くらいか。それも時々妹が勝手にやってしまうこともあるので兄として本当に面目ないと思っている。というか、妹が超人すぎるのだ。頭もいいし、運動神経もある。俺が言うのも何だが可愛いし綺麗だ。まさしく才色兼備。欠点と言えば少々毒舌なとこか。まあ、そこら辺はご愛嬌ってやつだ。 「おかえりなさい、兄さん」 居間から妹が出てきた。エプロンをしているところを見ると、夕飯の支度をしていたのだろう。台所から良い匂いもするし間違いない。 鳴海飛鳥、正真正銘の俺の妹だ。 「夕飯作ってたのか。悪いな飛鳥」 自然な対応をしたはずだが、俺は咄嗟に右手を背中の後ろに隠してしまった。
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