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「右手、どうかしたんですか?」
飛鳥は訝しみながらきいてきた。
「な、なんでもないよ。ははははは」
乾いた笑い声になっていたような気もするが、それよりも早くこの場から離脱しなければ。絆創膏を貼りさえすれば傷はみえない。そうすれば人を殴った時に出来る傷だとは分からなくなる。
稽古以外で人に拳を振るうことを飛鳥はとても嫌っている。だから、俺が誰かを殴ったなんて飛鳥に知れれば、大変なことになるのだ。きっとめっちゃ怒られる。
「それじゃ、俺は部屋に行くから」
そそくさとその場を後にしようとした俺の腕を飛鳥が掴んだ。
「ちょっと待ってください」
あ、オワタ。これ積みですわ。完全にばれちゃいましたわ。
「この手……」
飛鳥は俺の右手をしっかりと確認してしまった。傷。寺崎を殴った時にできた傷。飛鳥ならばすぐにこれがどのようにして出来た傷なのか分かるだろう。故に俺終了。このまま道場に引っ張られてぼこられる。
中学生のころ一度だけ同じことがあった。喧嘩でクラスメイトを殴ったら、飛鳥に家でぼこられた。その武術は人を傷つけるためにあるものじゃないと。子どものくせに、その頃から飛鳥はどこか大人びていた。誰にも甘えようとしなかったし、泣いたところもほとんど見た事がない。
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