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気がつけば、いつも隣にいた。
そんな存在が、多分彼だったんだろう。
夏休み。
避暑地プラス自習室の役割を果たす図書館は、きっと私と彼にとっての、一番の落ち着く場所だった。
パラリと捲られてゆく本の音と、カリカリと小さく響くペンの音以外、何も聞こえない。
今日も私の隣には、メガネを掛けて本を捲る彼の姿。
会話もしたことがないのに、毎日見ていると何故か湧いてしまう愛着に、私はひとり苦笑する。
……この人は、どんな声で話すんだろう。
どんな風に、笑うんだろう。
筋の通った鼻に、切れ長の瞳。
その端正な横顔を見ているだけで、十分私には満足で……。
ちらりとこっちを見た彼と、一瞬目が合う。
「あ」
ポロ、とシャーペンが机に落ちた。
きっとこれが、私達の始まり。
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