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「止めなさいよ!」
その声に驚き振り向くと20代前半と思われる見知らぬ女が必死の形相で叫んでいた。
返事を返さずに顔を前に戻す。12階のマンションから下を覗き込む。高い。生まれて22年骨折もしたことがない俺だが充分死ぬ事ができるだろう。
「だから止めなさいって!」
「俺はもう生きていくのが嫌になったんだ」
「こんな所から飛び降りたら君全身ばらばらになっちゃうんだよ!木っ端微塵よ!痛すぎだよ!」
「知ってる?充分な高さがあれば落ちてる時に恐怖で気絶するから痛みなんて感じないんだよ」
女が鼻で笑った。
俺はもう一度振り向く。笑われた事にムッとしたのだ。
「何がおかしいんだよ」
「君その話、誰に聞いたの?」
少し考える。ネットか本で見たような気がする。そのように答えた。
「飛び降りたら死んじゃうのに誰が気絶するって分かるのよ?死体?死体は話さないよ」
返事に窮する。確かにその通りだ。激痛を想像し身が竦む。
「ね、だから止めなさいよ。痛いだけだって」
「い、一瞬の激痛が何だ!俺は毎日、毎晩あの日の事を思い出して苦しんでいるんだ。落ちた時の痛みなんて3日でおつりがくるね!」
少しの沈黙の後、女が言った。
「一体何があったの。私に話してくれない?」
「そんな事言いたくない。大体君はなんの権利があって俺の邪魔をするんだ!」
「君はなんの権利があって私の見ている所で死ねわけ?私の安眠を奪わないで!」
ああ言えばこういう。機関銃のような女だ。恐らく女はこのマンションの住人なんだろう、これから死のうとする俺に普通とは違うものを感じついてきてしまったのだろう。
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