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その瞬間、ただでさえ静かだった教室の空気が凍ったように感じられた。
一呼吸置いて教室内に巻き起こったのは爆笑の渦だった。
大橋でさえも涙を浮かべて笑っている。
どうしたことか!俺は混乱の極地にいた。
あの日というのは機嫌が悪い時に使う言葉ではなかったのか。
自分が何かとんでもない過ちをおかした気がした。机の上のメロンパンをかっさらうと教室を飛び出した。
そのまま気がつくと自宅の前だった。バックも持たずに飛び出した事に今初めて気づいた。
部屋に戻ると今日犯してしまった過ちを振り返る。みんなは「あの日」という言葉に反応したのだろう。それは間違いない事のように思えた。
俺は「あの日」の意味を知らなければならない!
だが昨日調べた辞書にも載っていなかった。母ちゃんに聞くのもまた不機嫌に怒鳴られそうで嫌だった。父ちゃん!父ちゃんならば教えてくれるかもしれない。だが今は昼をちょっと過ぎたところだ。帰宅するのはまだまだ先だろう。とてもそれまで耐えられそうにない。
尚樹ならば教えてくれるかもしれない。尚樹も俺の事を笑っていた。だがここで悶々としているよりはまし。携帯にかけてみる事にした。
尚樹はすぐに電話にでた。
「尚樹、教えてくれあの日っていったい何の日なんだ?!」
電話口から笑い声が聞こえた。くそ!馬鹿にしやがって!
だが怒りをなんとかこらえる。
「頼む!尚樹、教えてくれ」
必死に頼みこむ。
「お、お前は、ど、どうしようもない、や、やつだな」
笑いすぎて息が切れているようだ。
耐えろ!耐えるんだ俺!
「あの日ってのは生理中って事だよ。生理とは言いづらいからあの日って言うんだろ。お前男のくせにあの日なのかよ。おまたから血でてんのか?」
そういうと尚樹はまた笑いだした。
そうだったのか。俺はなんという事をしてしまったのか。
呆然としたまま電話をきる。きったはずの電話からまだ笑い声が聞こえている気がする。
尚樹とはもう絶交だ。親友だと思っていたのに。慰めようともせず馬鹿笑いしやがって!
今日俺は全てを亡くしたのだ。
それからの3年間は地獄だった。周りの連中からはさんざん馬鹿にされた。
体育の時間などは必ず、授業前に聞かれるのだ。
「今日はあの日じゃないの?」
その手のくだらない嘲笑に俺は必死で耐えた。3年間貝のようになって過ごした。
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