木下(きのした)編

5/8
前へ
/8ページ
次へ
「おはよう。今日は貴子の嫌いな検査の日ー。しかも血液検査だってさー。ついでに紙コップ2杯~」 「なんなのよ、あんた!からかいにきたの!?」 まだ少し鼻声で貴子が怒鳴る。 「そうだよ。―――心配だからさ…」 俺はうつむく。 「なんでよ!」 「昨日、具合い悪そうだったから!」 「大丈夫よ…別に…」 ふくれ面のままそっぽを向く。 「良い結果だと良いな」 俺は呟いて振り返った。 (ほんとうは、これを言いにきたんだ…) 「きーちゃん…」 うしろで貴子が呟いたけど、俺はそのまま病室をあとにした――― 俺は屋上から夜の町をみていた。 「きーちゃん」 貴子が呼んだけど俺は振り返ってやらなかった。 「怒ってる?」 「風邪、治ってないんだろ」俺は振り返って言った。 それから貴子の横を通って、屋上からでた。 大学に戻ろうとしたけど貴子のことが心配で病室に寄った。 貴子は眠っていた。 俺はそっと布団をかけ直した。 「早くよくなると良いな…」呟いて病室をでた。 俺は、途方に暮れるほどせつなかった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加