木下(きのした)編

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「おはよう。今日は人工透析だね」 貴子の場合、週3回、人工透析でこわれた腎臓をおぎなっている。でも、かなりの重体の為、新しい腎臓が必要なんだ。 「うん」 腎臓バンクに登録していると提供者(ドナー)の腎臓を待つことになる。だけど貴子にあうものでなければいけない。そうなると確率も自然と低くなってくる。 そのうえ手術も出来ずに…。「がんばっておいで」 俺はそう言って振り返った。「きーちゃん…」 小さいけどはっきりした声で貴子が俺を呼んだ。 「ん?」 「私…」 貴子がうつむく。 その時、ドアをノックして看護婦さんが顔をだした。 「時間だよ」 「はい」 貴子は返事をして俺をみた。いままでみたこともないくらいかなしい瞳だった―――
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