12人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ、ラーシュ。ただのデータの集積に過ぎない人工知能にも、魂ってあるのかしら。私がこの胸に感じている『消えたくない』という思いが、魂なのかな」
弱々しく空に向かって伸ばされたイェシカの手を、ラーシュはしっかりとつかんで自分の頬に押しあてた。
「自分のことをただのデータとか、言うんじゃない。いいかい、イェシカ。最初は全く興味がない他人だったとしても、同じ時間を過ごすうちに特別な存在になっていくんだ。一緒に旅をして、たくさんのことを共に経験した君は、俺にとってもう他の誰とも同じじゃないんだ。だから……!」
「ありがとう、ラーシュ。何だか私、わかった気がする。私にとっても、ラーシュは特別な存在なんだわ。だから、例え自分が消えることになったとしても、守りたいと願ったのね」
イェシカの声は次第にノイズが強くなり、そして、だんだん小さくなっていった。バグの穴はごくゆっくり、しかし確実に広がってイェシカの姿を消していく。
「私、もし生まれ変われるとしたら、今度は人間になってまたラーシュと会いたいな。人工知能が生まれ変わることができるのか、わからないけれど……」
「生まれ変われるさ。だって君という魂は、確実に今、ここに存在しているじゃないか。俺は奇跡を信じるよ。君のことを、ずっと待っている。約束するよ」
涙が混じるラーシュの言葉が届いたのか、イェシカは最期に少し微笑んだように見えた。
やがてイェシカの姿は、ヤヴュルが消えたときと同じように、煙となってふっと消え去った。
最初のコメントを投稿しよう!