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それはバグ・クエストと呼ばれた。バグを駆除したプレイヤーには、より多くの報酬が与えられるシステムだ。
バグ・クエストは先着順で依頼数も少なく、ゲームの中でも人気のクエストである。
ところが最近になって、このクエストの消化中にプレイヤーの個人情報が流出する事件が続出した。
スパイバグと接触したプレイヤーは、PC内部のデータやクレジットカード情報、果てはプレイヤーのGPS情報までもが全てネット上に流出した。
スパイバグはオンラインゲーム間で伝染する力も持っており、被害が急速に広まりつつあった。
この事態を受け、ゲーム運営会社はネット上に散らばったスパイバグの駆除に警察の協力を要請したのである。
警察もまた、スパイバグの発生の裏には個人情報の流出を企む何らかの組織が絡んでいるとにらみ、捜査を開始した。
吉之が所属する『スパイバグ駆除班』の仕事はゲーム内への潜入捜査であり、一般プレイヤーに成り済ましてバグに近づくことでバグの情報収集をすること。
これが、吉之がかれこれ二ヶ月間、朝から晩までずっとゲーム漬けとなっている理由だった。
もっとも、「班」とは名ばかりで、班員は吉之ただ一人だけ。つまり、吉之はメインの捜査班からあぶれた人材というわけだ。
「あれれ、先輩、いつの間にパーティ組んだんですか? しかも、メンバーは女性キャラと二人きりとか……。たまにプレイヤー同士が恋愛に発展することがあるとは聞いていましたけど、まさか先輩も?!」
窓際の壁にもたれ、口から白い煙を吐きながら外を眩しそうに眺めていた吉之は、目を見開いてPCの画面を見つめている明里のほうへ視線だけを向けた。
ディスプレイには、金色の髪に狐のようなふかふかの耳を生やした女性が、画面の中からこちらを覗きこんでいる。
「オンラインゲームじゃ、ゲームを有利に進めるためにパーティを組むのは普通だろ。単独の方がかえって目立ってしまって、潜入捜査にはあまり好ましい状態じゃない。ただ、それだけだ」
吉之はため息まじりに目を細め、持っていた灰皿にタバコの灰を落とした。
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