Anda Tararna (アンダトゥーラナ)

5/12
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「恋愛っていうのは、知らないうちに始まっていることもあるんです。今朝のニュースでは、今日の山羊座の運勢、1位でしたよ。先輩の恋愛運は絶好調なんですから、思い切ってイェシカさんに告白でもしてみたらどうですか?」 「バカバカしい。イェシカはただのゲーム上のパートナーだと言っているだろう。だいたい占いとか奇跡とか、ただの偶然を美化しただけの虚飾に過ぎないのに、そういうのをありがたがる気持ちが俺にはさっぱりわからないね。それより佐藤。確か、もうすぐ捜査会議だろう? こんな署内の隅っこでゲームしてる底辺の先輩署員なんかと油を売っている暇はないんじゃないか?」  吉之は喉の奥で卑屈に笑い、タバコをくわえて再び壁によりかかった。窓がはね返した太陽の光が、ディスプレイの後ろの壁に複雑な光の模様を刻む。 「もー、せっかく心配して様子を見に来たのに。そうやって卑屈なことばかり言っていると、幸せが逃げていっちゃいますよ。最初は全く興味がない他人だったとしても、同じ時間を過ごすうちに特別な存在になっていくんです。恋愛って、そういうものでしょ」  明里は胸を張って諭すと、空になった紙コップを回収して腕時計を確認し、部屋を出て行った。 「やれやれ。あいつは何でいつも上から目線なんだ? 優秀で結果さえあれば、どんな奴であろうと出世する。人を哀れむという行為がどれだけ傲慢なことかもわからないあんなガキでも、な。ほんと、世の中なんてクソ食らえだぜ」  吉之はひとりごちながらオフィスチェアに戻ってタバコをもみ消し、再びヘッドセットを装着してマイクの電源をつけた。 *************** 「ヤヴュルの居場所がわかったって?」  ラーシュは貴重な情報を聞きもらすまいと、耳に神経を集中させた。  ヤヴュルは、数あるスパイバグの中で最も古いバグの通称である。  ゲームの運営会社はヤヴュルの除去を何度も試みたが、不思議なことに、ヤヴュルは何度消してもいつの間にかまた復活してしまう。  当初設定されていたヤヴュルへのバグ・クエストはヤヴュルがスパイバグであると発覚した後すぐに廃止されたが、それでもなおヤヴュルを狩るプレイヤーが後を絶たない。  それは、ヤヴュルを倒すとバグのせいで高額な報奨金が得られるからだった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!