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ラーシュとイェシカも、情報流出の危険を顧みずにそうした『密猟』を行なうパーティの一つだった。
「それにしても奇妙ね。スパイバグが危険ならば、感染したオンラインゲーム自体を閉鎖してしまえばいいのに、なぜそうしないのかしら」
ヤヴュルの出没した位置情報を示した地図を表示させながら、イェシカがぽつりと言う。
「さあね。だけどゲームが閉鎖されないからこそ、こうして俺たちも荒稼ぎができるわけだし。やれるうちに目一杯稼いでしまえば、それでいいじゃないか」
ラーシュは、なるべく素っ気ない返事をした。
潜入捜査で情報を得るために、他のプレイヤーたちの危険を承知で敢えてゲームを閉鎖していない、などとは口が裂けても言えない事実だ。
イェシカはいつもとラーシュの雰囲気が違うことを感じたのか、不意に黙り込んでしまった。
二人が立っている岬からは、眼下に小さな港町を見下ろすことができる。
深いエメラルドグリーンの海と真っ白な家の壁が映え、まるで一枚の絵画を切り取ったようである。
下から時おりふき上がってくる海風が、イェシカの髪を揺らした。
「……ねぇ、ラーシュ。次のヤヴュル狩りが終わったら、話したいことがあるの」
しばしの沈黙の後、イェシカは顔を上げ、思いつめたようにラーシュの顔を見た。
背後に見える海のように深い緑色の瞳にじっと見つめられ、ラーシュは胸の奥がぎゅっと締め付けられる感覚に襲われる。
「別に構わないが、急にどうしたんだ? やけにもったいぶって、君らしくないじゃないか」
次第に早くなる脈拍を悟られないように、ラーシュはなるべくゆっくりと発音した。
先ほど明里から聞いた恋愛運の話が、ふと頭をよぎる。
ラーシュは自分の安易な発想に自己嫌悪しながら、懸命にその考えを振り払った。
「いつかは言わなければと、ずっと思っていたことよ」
イェシカの細く美しい声が、ラーシュの耳をくすぐる。風が、再びイェシカの髪を揺らした。
そのとき、ラーシュは光を受けて輝くイェシカの髪を、初めて美しいと思った。
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