Anda Tararna (アンダトゥーラナ)

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「私ね、あなたが警察だって、知っていた。警察が集めたデータベースを完全に破壊するスクリプトを作製するためにあなたにわざと接触して、警察のセキュリティ情報をヤヴュルに裏で流していたの」  イェシカの口から出た事実に、ラーシュは唖然とする。 「……それじゃあ君は、ヤヴュル製作者に関与する人物だったというのか」  ラーシュは、やっとのことで言葉をしぼり出した。  しかしラーシュの予想に反し、イェシカは首を横に振った。 「違うわ。私は……そもそも、人間ではないの。ヤヴュルによって人工知能を持つバグを植え付けられているから、こうしてあなたと自由な会話もできるけれど、もともとはコンピュータが自動で操作するNPC(ノンプレイヤーキャラクター)なのよ。ある意味、私の存在自体もバグということになるのかもしれない」  そう言って、イェシカはぎゅっと目を閉じた。 「どういうことだ? その話だと、バグであるヤヴュルがまるで自ら意志を持ち、自立的に新しいバグを作り出しているように聞こえる。ヤヴュルは誰かが作り出したスパイバグではないというのか?」  ラーシュは声を強め、目を伏せたイェシカの肩をゆさぶった。 「ヤヴュル自身は、正真正銘のバグよ。誰が作り出しのでもない、それこそ純粋なバグ。本当に奇跡的な確率で自然発生した、人工知能というバグを手に入れたバグなの」 「そんなことが、本当に起きるはずないだろう。第一、それが本当だとしても、君はどうしてその情報を敵であるはずの警察の俺に教えるんだ? おかしいじゃないか。そんなに簡単に、俺を騙せると思うなよ!」  怒りをあらわに、ラーシュはイェシカを怒鳴りつける。  イェシカが人工知能を持つNPCであるという事実よりも、たった数ヶ月とはいえ毎日助け合い、ときに笑い合ったイェシカに裏切られた悲しみの方が大きかった。 「聞いて、ラーシュ。私は……」  イェシカが何かを言おうとしたが、大きなノイズがそれをさえぎった。  音に少し遅れて、バグの渦が虹色の光を走らせながら二人の後ろに立ち上がる。 「お前たち警察が集めた私に関するデータは、ここで全て消去させてもらう」  低い男の声が、ラーシュの頭にがんがんと響く。ざらざらとしたバグの嵐が、激しく荒れ狂った。
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