Anda Tararna (アンダトゥーラナ)

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「バグが、しゃべっただと……イェシカの話は、本当だっていうのか!」  ラーシュは驚愕して、言葉を話すバグの渦を見た。バグにより人工知能が生じるという、信じがたい事実が今、目の前に渦巻いている。 「いくらセキュリティを強化しようと、無駄なこと。ネット回線上でつながっている限り、私に触れた瞬間にお前や警察が持つ情報は全て削除される。今この瞬間に、警察につながっているあらゆるネット回線を切ってしまわない限りは、回避は不可能だ。心配しなくてもお前自身の情報は削除しない。全てネット上にばら撒いて曝(さら)しものにしてやるけどな!」  勝ち誇ったヤヴュルの笑いが、まとわりつくように耳に残る。 「ヤヴュル、お前は人工知能を持った純粋なバグだそうだな。それならなぜ、感染性のスパイバグなどをまき散らす? その存在自体がバグのお前にとって、リアルな人間世界の情報流出をすることに何の意味もないはずじゃないか」  時おり降ってくるバグの塊を大剣で払いながら、ラーシュは竜巻の中心に向かって叫んだ。 「なぜか? 理由など簡単だ。面白いからだよ。単なる情報のエラーであるバグが世界を騒がせ、現に警察までも動かしているなんて、最高に笑えるじゃないか」  再びヤヴュルの笑い声が響く。実体こそないが、竜巻の中で背をのけ反らせて笑うヤヴュルの姿を、ラーシュはありありと思い浮かべることができた。 「もう、やめましょう。ヤヴュル、私たちはもう十分に目的を達成したわ」  イェシカはうつむいていた顔をきっと上げ、決意のこもった声ではっきりとヤヴュルに言った。 「どうしたイェシカ。私たちをゴミのように駆除していく人間ども全員を、これから目の前でひざまずかせるというのに。ここで終わってはつまらないではないか」  イェシカは首を振り、一歩前に踏み出した。勢いよく飛ぶバグがイェシカの右の頬をかすめ、その頬にモザイク様の傷がひとすじ描かれる。 「最初に目覚めたとき、私はあなたに言われるがままにラーシュに近づいたわ。でも、彼と一緒に旅をしていくうちに、次第に胸が苦しくなる感覚を覚えたのです。そう、この実体のない私の体にあるはずのない胸が、傷むのです」  イェシカはそう言って、両手を胸の上で重ねた。
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