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一
睡魔が私を襲う。誰かが私を呼んでいるような気がして夢とうつつの間で聞いていた。だか、やはり睡魔には勝てないのか夢の中にいこうと思ったとき、
「せんせっ、先生」
肩をゆさぶられ、私は目をとじていたが、「起きろ」と自分に命令することができた。
目をショボショボさせながら開けると目の前に部下の森岡くんが心配そうな顔をしていた。
「秋口先生、大丈夫ですか?」
と訊いてきた。
私は、森岡くんに返事もせず、大きなあくびをしてしまった。この様子じゃ大丈夫だろうと森岡くんは思ったらしく、続けて私に「清村伝説」と書かれた一枚の紙を渡した。
「次は、K県にまつわる都市伝説で、僕はこの真相を明らかにして写真に収めたいたいんです!それが、プロになるカメラマンですよね」
そう言う森岡くんの目は輝いていて、まるで純粋な少年が大きな希望を持っているように見える。 まぁ、真相を明らかにすればプロのカメラマンになれるというのは少しズレている気もする。私は、紙を机の上に置き、
「その取材は却下する。なに、いくらでも仕事はあろう」
と言ったものだから、森岡くんは肩をしぼめてしまった。
少年が希望を失ったような感じだった。なんだから、気の毒なことをしてしまったなと胸が痛む。
そのとき、事務所にチャイムが鳴った。どうやら来客のようだ。森岡くんに出てくれるよう頼み、待っていたら思わぬ来客が私の前に来た。
「久しぶりだね。元気にしてたかい?」
それは恩師の溝端先生だった。恩師の懐かしい声に私は、思わず涙ぐみそうになる。
私は、溝端先生と客間でたわいない昔話で盛り上がった。
「全く、ど素人だった君が今じゃ、有名なカメラマンか…」
溝端先生は、昔を懐かしんでいるのか目が潤んでいる。続けて溝端先生は、まっ、しかし君は僕の言うことなんか聞かないで好き勝手してたけどね、と言うもんだから私は、飲んでいた茶が噴き出しそうになった。
「ちょ、好き勝手やっていたのは溝端先生じゃないですか。あの日だって
私を問答無用にK県に連れていきましたよね?」
「…………」
溝端先生は急に黙りこんだ。
しまった! なんて失礼な発言をしてしまったのだろうと頭の中がパニックになっていたら、
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