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それから数日が立った。
その日の検査が終わり、病室に戻るとぼんやりと外を眺めながらここ数日のことを考えていた。
手術を受けようという気にはなれないものの、検査もきちんと受け病院で出される食事も朝、昼、晩と取るようになっていた。
俺は恵美と出会ったあの日から劇的に変化していた。
幸い状態も安定しているようで今の薬をそのまま続けて投与していくことになった。
「じゃあ、母さん行くから。明日は来るの少し遅くなると思うから。」
「ああ、分かった。別に無理して毎日来なくていいよ。」
俺は母さんの体を心配してそう言うと、私が幸人に会いたいのよ、と無理なんかしていないと証明するかのように微笑んだ。
母もあの日から変わったようだ。
いや、変わったというよりは昔の母に戻ったといったほうが正しいかもしれない。
母さんはもともと笑顔の絶えないかわいらしい人だった。
俺の病気がわかってからは表面上は笑っていてもいつも悲しそうな眼をしていた。
今にも泣いてしまいそうな顔で笑う母を見るのはかなりつらいものがあった。
ただ、決して俺の前で涙を見せることはなかった。
きっと自分は俺の前では絶対に泣いてはいけないと気を張っていたのだろう。
しかし、この間俺が病院を抜け出した一件で、思う存分泣いて何かが吹っ切れたのだろう。
以前の笑顔の絶えない母に戻っていた。
きっと恵美との出会いだけではなく、母の変化も今の穏やかな気持ちでいられる要因の一つだろう。
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