導入の潮風

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 ボクの、いや、ワタシの…自分の人生に生命の危機というものはなかった。事故に遭ったことはないし、怪我や病気も大したものはない。爺様や婆様がことあるごとに口にしている、神様が見守ってくれているのだ、も大概合っているかもしれないだろう。  言うところの神様には薄情で悪いが、自分の人生は退屈だった。エキサイティングとも表現出来るものがなかったのだ。まったく、不干渉な癖に過保護を気取る神様はどこまでも呆れたものだ。 「つまらない人生を有難う」  朝陽を目を細くして拝むにはまだ早めだ。足首に纏わりつく波紋を蹴飛ばして絶対的な朝陽に進む。随時と古風な死に方だ、死装束でも着込めばより正式だろうか。
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