* 冷たい上司

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新入社員は半年も経ったら、初心者マークは自動的に外されるのだろうか。 それとも、半年経ちながらも、まだ新人気分でいること自体がおかしいのだろうか。 今日も主任の 水野 総司(みずの そうじ)は、その凛々しい顔の中央にシワを寄せている。 …とても激しく。 「藤井。長野工場に連絡しなかった?20日に行くって言ったら、びっくりしてたけど。」 低くて静かな声だけに、冷たく感じる。 「…すみません。まだ日にちに余裕あるかと思って…。」 思わず肩をすくめて水野主任を見ると、更に眉間のシワは深くなった。 「…それはアナタの見解でしょ?向こうには向こうの都合があるんだから。てか、こんなコトまで言わないとダメなの!?…フツー分かるでしょ?社会人として。」 言われている事は分かるけれども、まだ一週間以上あるのにと思うと、自然と唇が尖ってくる。 本社の人間が行くとなれば、地方工場としては何としてでも予定を組み入れるはずなのだ。たとえそれが、どんなに突然だったとしても。 なぜなら、本社の人間が地方工場に行く際は、必ず「視察」の報告も上げるから。 地方工場としてどういう状態・環境で運営しているのか、問題点・改善点はないかとか、毎月のデータのやり取りじゃ分からないような、生の「目」で見た報告を。 あちこちの地方営業所や、工場を回った営業部の観察眼は優れているから、その場しのぎの取り繕ったような抵抗くらいアッサリ見破る。 それが分かっているから、むしろ抜き打ちの方がいいのではと思えてくる。 けれど水野主任はそんな心の声が聞こえたのか、若干不満げなきよらに言った。 「あのね、毎回毎回視察がメインじゃないんだから。今回は特に生産ライン見せてもらうんだし、工程案内してくれる人いないとコッチも困るでしょ?…クライアント連れてくし。20日じゃないとマズイの知ってるでしょ?」
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