第零章

2/3
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「殺ったか……?」  秋の空気を震わせ、不安混じりの訝るような声が響いた。  セイン神聖王国ロマール魔導災害強制隔離地区〈冥宮街〉、通称〈ワールド・エンド〉の界隈。  時刻は逢魔ヶ時──山羊の一刻(十八時から十八時半)辺りだろう。早くも夜の帳が降りた辺りには、吐瀉物のすえた匂いが広がる。瓦礫が散乱し、そこら中を漂う粉塵の隙間からは昇り始めた紅い月が見えた。  石畳に叩きつけられたランプが、炎と煙を上げていた。万華鏡のように、撒き散らされた硝子が炎を反射する。炎が揺らめく度に、形を変える影が、次々と様子を窺う男達を象った。   男達は銀色の胸当てなどの軽装胸甲の下に〈聖騎軍(ホーリーナイツアーミー)〉の紺青──紫を帯びた暗い青色──の軍衣を着ていた。上から〈有翼の向かい合う双子〉の紋章をあしらった白い西方陣羽織(サーコート)を羽織っている。  黒い下衣(ズボン)を履き、銀色の胸甲には数字の7を組み合わせてでできた卍──七万字の徽章(エンブレム)があった。  東西南北を守る〈四天王方面軍〉に対し、聖都ルイーンなど中央を守る〈王立軍(ロイヤルアーミー〉だ。それも聖王直属の近衛七連隊(ロイヤルセブンガーズ)だろう。銀色のヘルメットの青い羽根飾りから〈双護天使(ツインガード・エンジェル)〉ことカストゥール近衛歩兵第三連隊と知れる。  そんな彼らが、光束烈射式突撃槍(レーザー・ランス)型の武機(Armed Machine)を構え、油断なく視線を向ける先には──
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!