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――まだ、小学校に行く前だったけど……確か、皆既月食だったと思う。
女の子:「おねーちゃん、ねむいよぅっ……」
女性:「ほら、みかん……見える?」
女の子:「きいてない……」
――夜の9時ぐらいだったかな、お姉ちゃんが無理矢理寝ぼけ眼の私を引っ張って、外に連れ出したんだ。
女性:「お月様が、食べられてるよ。」
女の子:「……えっ?」
――見上げた空に浮かぶお月様が、欠け始めてた。
女性:「これから……だんだん食べられて、あと二時間くらいで……赤黒く染まって……そのあと、ちゃんと戻るの……」
女の子:「あかぐろく……?」
――まったく理解は出来なかったけど、なんだかお姉ちゃんの様子も変だったし、とにかく怖かった。
女性:「……」
女の子:「ねぇ……おねーちゃん、怖いよぅ……」
女性:「大丈夫だよ……見て……もう、あんなに食べられた……」
――お姉ちゃんは、私から話し掛けない限り、ずっと無言で……。
女の子:「くび、つかれない……?」
女性:「大丈夫……」
――お姉ちゃんが、手を離してくれなくて……お月様が欠けるのを見るだけの、とても長い時間だった。
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