赤の物語【1】

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 全く不可解だった。  街の人間に聞けば皆『シオンと一緒に歩いていた』という。  だが当人のシオンには全くシエラと町を歩いた覚えなどない。 「なんなんだ?一体…」  思わずこぼすシオン。  隣に歩くエリカも混乱しているようで、首を捻って考えている。 「人を、お探しですか?」  不意に聞こえた声に、シオンとエリカは揃って声の方へ目をやった。  そこには、真っ黒なフードの付いたマントを着たまるで魔道師のような男――声色からそう察しただけなのだが――が路上の片隅に椅子を置いて腰掛けていた。 「…誰なんだ?あんたみたいな人は町で見たことがない」 明らかに怪訝な表情となってシオンはその男に問いかけた。 「それはそうでしょうとも。私は隣町からやってきた占い師ですから。今日の昼にやってきたんですがね。どうにも町のようすがおかしいようですので」 「町の様子が…おかしい?」 「ええ、貴方、見たところ人間ではないようですが……わかりませんか?」  人間ではないと言われ、シオンの眉間にさらに皺が寄る。  気にしている事を言われたというのもあるが、フードに覆い隠されて窺い知れない目の前の『占い師』と名乗る男になにやらきな臭いものを感じたのだ。  できれば、すぐにこの占い師から離れたいと思った。  でも、『人探しをしている』と見抜いて声をかけたくらいだ、何か手がかり走っているのかも知れない。  シオンの後ろで話を聞くエリカも同じように思っている様子で、二人は顔を見合わせて頷き合った。 「わからない。何のことを言ってるんだ?」  シオンがそう返答すると、どうやら占い師は笑ったようだった。肩が僅かに揺れて、ようやっと笑ったと分かった程度だが。 「わかりませんか。自然が、怯えているんですよ」 「自然が怯える?何に。」 「さぁ…自分達を脅かす存在に、でしょうか。自然が怯えるという事は、そこに自然を脅かすものがあるという事。『魔』が、忍び寄ること――」 「…魔…?」 「そう、魔です」  占い師はそう言うと、すっと指を差す。その方向は、町の北の方角だった。  町の北は、今は使われていない工業地帯で、寂れた工場と、瓦礫の山だけが残っている場所だった。 「あちらに、微かですが、魔の気配が致します。確か、工場を抜けた先に、今は誰も住まなくなった廃屋が、あるとか」
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