赤の物語【1】

7/16
前へ
/86ページ
次へ
 シオンとエリカは占い師の指差す方に目をやる。  何故この占い師がそんな事を知っているのかは知らないが、とにかく占い師の言う廃屋は確かに存在した。  とはいえ『立ち入りを禁ず』の看板が立てられて、今は町の子供達が肝試しに行く程度で、誰かが何かに使うような事はない場所だった。  だから、何かが居る、と言われてしまえば確かに頷ける話だったのだが。 「魔は、人を誘います。もしも人探しなら、一度行かれてはいかがですか?恐らくは…危険が伴うでしょうが」  二人を促すかのように、占い師は言う。  だが、何の手がかりもない状況ではシオンにしてもエリカにしても、他を当たるという選択肢は思いつかなかった。  だから、二人は不気味な占い師の言葉に従い、仕方なしに村の北の外れの廃屋へと足を運ぶ事にしたのだ。            ××  シオンは、気付かなかったのかな。  工場地帯を歩くシオンとエリカ。エリカは、シオンの後姿を見ながら心の中でそう思った。  先刻の占い師、あれは人間というにはあまりに異質な気配を放っていた。  エリカはシスター見習いである。  神に仕えるものだからこそ感じ取れるものなのかも知れないが、『魔』の話をしていたというのにあの占い師そのものが『魔』に思えるほど、その存在は邪悪だった。  それに、あの占い師はあたしを全く見てなかった。  語りかける言葉も、視線も、意識もシオンにしか向けられていなかったように思う。  シオンがなんだか連れ去られてしまいそうな気がして、エリカの胸はざわついた。  彼は、エリカが知る人の中では一番に強い。  剣の腕も、剣術を正式には習っていないものの飛び入りで剣術の試合をした時も誰にも負けなかった。だから―彼が何かにやられるという事は考えられなかった。  なのに、なんだろうこの胸のざわめきは。  悪い事が起きる。  そんな予感がしてならなくて、シオンを引き止めたかった。  だけどそれじゃあ自分の妹も見つからないままになってしまいそうで――  エリカは何も言えずにシオンに付いていく事しか出来なかった。            ××
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加