赤の物語【1】

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「アッハハハハハハハハハハハハハッ!!!」 「面白い面白い面白いねぇ。なんて無様なんだろうなんて愚かなんだろう。ゴミクズのような人間なんて輩に心を寄せて、洗脳されるからそんなに甘く、そんなに愚かになるのさ君は」  埃だらけの室内で、彼はひとしきり笑って、嘲る。  床に横たわらせた少女の頭を無造作に踵で踏みつけ、なおも彼は笑う。 「こんなものがなんだって言うの?こんなもの、ちょっと力を加えたら水風船みたいに破裂する脆弱な生き物だっていうのに」  踏みつけてもなんの反応も示さない少女を見下ろしながら、彼はさも忌々しそうに言葉を吐き出す。正しく、吐き捨てるかのように。 「これが、君の幸せかい?もし、こんなくだらない、愚かしいものがそうだっていうんだったら――」    少女を踏みつけた足――いや、恐らくはその下の彼の言う脆弱な生き物――を見据え、無機質な瞳で彼は呟いた。 「粉々に壊してあげるよ」  そう呟いて、またも彼は高らかに笑った。            ××  辿り着いた廃屋は、古びた大きな洋館で、子供の頃に来た時よりも小さく見えるはずなのに、今は大きく、そして邪悪なもののようにシオンの目に映った。 「ほんとに、入るの…?」  背後から恐る恐るエリカが尋ねる。  ――そうか、エリカも女の子なんだ。恐いよな。  そこで初めて気が付いたかのようにシオンは思い直し、振り返って力強く微笑んだ。  そのルビーのような赤い目が頼もしい光を放つ。少なくともエリカにはそう思えた。 「大丈夫、エリカの事は、俺が絶対守るから」  少年はそう言い切った。  少なくとも、その時はそれが出来ると信じていたのだから。            ××
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