赤の物語【1】

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 いや、正確には自分と全く同じ外見をした少年が、そこに居た。  赤い眼、真っ白な肌、墨をぶちまけたかのような漆黒の髪。  驚き目を見張るシオンに対し、目の前のシオンと同じ顔を持ったその少年は足取り軽く、シオンに歩み寄ってくる。 「邪魔だったんだよね、あの子。だから閉め出したってわけ」 「…なんだ?お前…」 「僕が君と同じ顔をしてるのがそんなにおかしい?そんな、幽霊でも見たような顔して、変だね?ホラ、君の顔だよ?シオン」  楽しそうに近づいてきて、少年はシオンの顔を下から窺うように見上げる。 「なんで……なんで俺の名前知ってんだよ…?」 「そんなの決まってるじゃない。僕は、君だからだよ、シオン」  シオンの反応を楽しむように、芝居がかった口調で言い放ち、目の前でくるりと回って見せる少年。 「あ、そうそう。僕は確かに君だけど、分身とかじゃあないよ。もしかしたら分身っていえるのかも知れないけど―そうだな……」  少し考えるように小首を傾げてから、すっと片手を差し出し、恭しく少年はお辞儀をして見せる。 「僕の名は、ヒース。君と全く同じで、全く違う者」  ヒースと名乗ったシオンと同じ顔の少年は、そんな意図の読めない事を言う。  でも、確かに顔は全く同じなのに、全く違う感じがする。そうシオンは思う。  ――俺はこいつとは同じじゃない。こんな…こんな気持ちの悪いもの、同じである訳がない! 「お前は、なんなんだ!なんで俺と同じ顔で、同じ声で…何を企んでる!?」  扉を背に、シオンはヒースに叫ぶ。  その言葉を聞いているのか聞いていないのか、あ、と声を出してからヒースは思い出したようにシオンとは反対側の、部屋の中央まで歩いていく。 「……?」  下手に動いて、後ろのエリカを守れなかったらまずい。そう思ってシオンはその場を動かず、ヒースの動向を見守る。  中央辺りまで歩いてからシオンに向き直ったヒースは、クスッと笑みを零してから、手を前に、自分の目線まで真っ直ぐに差し出した。  差し出した指をピアノを弾くかのように宙で動かしながら、ヒースはニヤリと唇の両端を吊り上げて笑った。 「ねぇシオン。君の探しもの、コレだよね?」  そう言いながら、ヒースが差し上げた指先を開くと、その下の空間が奇妙に歪んだ。  そして。
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