赤の物語【1】

11/16
前へ
/86ページ
次へ
 ぐにゃりと歪んだ空間から、不意に人が現われ、ヒースは現われたその人物の首根っこを鷲掴みにする。  それは紛れもなく、エリカの妹のシエラの姿だった。  どうやら口が利けないように唇を縫い付けられ、気を失わされているようだ。 「シエラ!」  突然探していたシエラが現われた事に戸惑いながらも、駆け寄ろうとするシオン。 「こんなの…」  それがさもつまらない事といった顔をしたヒースは、片腕で掴んだシエラの首をギリギリと絞めつけながら、呟く。  そしてもう片方の腕をシオンに向けて差出す。  シエラを救出しようと走ってきていたシオンの身体は、ヒースの差し出した手に操られるように、ヒースが手を上に上げるのに合わせて宙に浮かび上がった。 「なんだこれ…お前、何した!?」  操られるままに持ち上げられながらシオンは叫ぶ。 「なんかやだね。君って本当非力なんだ。知らないだけなんだろうけど、僕と同じなだけあって――やっぱり情けないよ」  落胆した、という風にため息まじりに息を吐くヒース。 「毒されたと思って同情するけど…。まあ、黙っててよ」  ヒースはそう言うと、シオンの身体を天井近くまで浮き上がらせて、  そのまま、床にシオンを叩き落とした。 「がっ…!」  頭から叩き落されたシオンは、苦悶の表情を浮かべる。  何故か、叩き落された時の衝撃はシオンの体重と重力の何倍もの衝撃で、一瞬首の骨が折れたのではないかという程だった。  なんとか手を床に付き、立ち上がろうとするが、立ち上がれない。 「くっ…」  やっとの事で顔だけ上を向くと、そこにはシエラの首を掴んだまま、ヒースが不気味な程無表情にシオンを見下ろしていた。  ザクリ 「ぐあぁっ!」  何が起きたのかシオンにはわからなかった。けれど、何かがシオンの身体を貫き、肉を割いて抉っていた。  ザシュッ    ドスッ 「ぅあぁぁっっ!」  肩、両腕、足と、何かわからない、槍のような何かがシオンの身体を次々と突き刺していく。  それをヒースは何の感情も感じさせない顔で、ただ見ていた。 「まあ、まず死なないよ。君は僕だから。それよりもさ…」
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加